第15回:出版社へ持ち込みの日に
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第15回:出版社へ持ち込みの日に

By mogura

■早すぎず・遅すぎず■

さて、予約もバッチリ、いよいよ上京して持ち込み当日。編集部に念のために事前の確認電話……は、してもしなくてもかまいません。編集者が不在のことも多いですし、急な予定変更もありますので。

当日は、いきなり出版社に行って、受付があり係がいる大きな出版社なら、編集部と予約した編集者、来訪目的を告げて、指示に従いましょう。受け付け係おらず、インターホンで呼び出しの出版社も同じです。

「本日、○○編集部の●●さんに、▲時に持込みの予約を入れていた✕✕と申しますが、いらっしゃいますでしょうか?」

この場合、気を利かせて打ち合わせの予定時間より早く行くのは、あまり歓迎されないことが多いです。時間に追われていることが多い編集者は、早めに来られると予定が狂うので、不機嫌になりがちです。

かと言って、遅れても時間にルーズな人間と思われますので、ピッタリより3分以内ぐらいに訪問が無難でしょうか。余裕があれば30分ほど前に到着して、出版社の周りを散策するのも緊張をほぐすのに有効な手段です。

 

■何か一品あると良し■

「持ち込みの際、何か手土産を持っていったほうが良いでしょうか?」という質問も、よく受けます。それは編集者も人間ですから、ないよりはあったほうが印象は良くなりますが、必須ではありません。

例えば、地方から上京する際には、地元の銘菓などを持っていけば、印象に残りやすくなって、プラスの面はあるでしょう。なにしろ人間の記憶は、匂いに紐付けられやすいという研究もあるほどですから。

でも、気をつけるべき点もいくつかあります。

人によっては甘いのが苦手という人もいますから、編集部で食べてもらうことを考えれば、甘すぎない菓子や、センベイなどのほうが無難。腐りやすい物や、包丁での切り分けが必要な物も、避けたほうが良いかと。

編集者時代、評判が良かったのは、小藤屋の缶入りのオカキ。袋に入ってるので湿気にくく、しかも缶が編集部の台割(本を創るときの設計図のような物です)入れに再利用でき、重宝されました。

 

■自然体で清潔にが吉■

持ち込みのときの服装も、よく聞かれます。自分はファッションセンスがないですし、服装にも気を使わないタイプなので、持ち込みの人の服装もさほど関心がないのですが、気にする持ち込みも多いようですね。

特に、女性の持込の場合は、印象を気にするようで。友人から借りたり、新たに購入したりする人もいたり。個人的には、服装は清潔な物であれば、さほど気にする編集者はいません。

だいたい、編集者自体が小汚いタイプが多いですし。自爆♫

ただ、安い服でもコーディネイトにセンスがある人は、作品作りでも細やかな配慮ができるタイプだなとは思います。逆に、高そうでも本人の雰囲気に合っていない服の人は、作品にも反映される部分を感じたり……。

ある漫画家さんは、担当との打ち合わせのときに、赤い色の服を必ずチョイスして、担当の印象に残るように工夫していたとか。数多いる新人作家の中で、顔と名前を印象づけるにはそういう小技も必要なときもあるでしょう。

 

■この助言の真の目的■

「たかが持ち込みで、そんなことをやらないといけないの?」と思った人もいるかもしれません。やれとかやらなければならないとか、そんなことは一言も書いていません。やりたくなければ、やらなくてかまいません。

それより重要なのは、たかが持ち込みでも、これぐらい配慮しようと思えばできることが、たくさんあるということ。そして、そこに気を使えるか・気付きはあるかという点は、実は作品作りにも通底します。

細部に目配りできる繊細さが、キャラクターに実在感を与えるのです。

もちろん、そんなことは指摘されなくても解っていて、その上であえて無視するのもまた、ひとつの選択肢。自分は持ち込んだ原稿の内容だけで勝負するという、覚悟や潔さもまた、あなたの個性ですから。

このコラムに限らず、自分が講座で教えているのは、弱者の戦術や戦略。野村克也氏の、弱いプロ野球チームが強者に勝つための戦術や戦略と、似たようなものです。

 

■あなたも観察しよう■

編集者が原稿を読んでいる間は、手持ち無沙汰ですし、不安にかられてつい饒舌になったりしがちですが、アドバイスをメモする筆記用具の準備や、アドバイスの項目を分ける準備などして間合いを取るのが良いでしょう。

編集部によっては、編集者が原稿を読んでる間は暇だろうからと、編集部の本や冊子などを用意してくれるところもあります。持ち込む側もまた、そういう部分で編集者や編集部の気配りを測ることが可能です。

作家の側にも、編集者と編集部を選ぶ権利があります。

原稿を読んだ後の編集者の態度とか、『サルまん』や『アオイホノオ』でもイロイロと描かれていますが、悲観的に勘ぐっても楽観的に勘ぐっても、あまり良いことはないです。自然体が一番でしょう。

名刺をもらえたからと言っても、舞い上がりすぎないことが大事です。名刺をポンポン配るタイプの編集者もいれば、そうでもない編集者もいます。もらえなかったとしても、その編集の評価が全てではないのは言わずもがな。

 

■復唱で金言をゲット■

ひとつ、有用なアドバイスを。インタビュアーが相手から自発的に言葉を引き出すテクニックはイロイロありますが、素人でもすぐに使えて有効な技術があります。それは〝相手の言葉を復唱する〟というもの。

例えば「もう少しデッサンを学んだほうがいいね」とか言われたときに、「美大でデッサンを学んだわけでもない、せいぜい明治や早稲田の漫研崩れが技術をエラソーに語ってんじゃねぇよ!」とか、正論を言うの考えもの。

人間は、嘘よりも正論に傷つきます。

でも、そんなときに「なるほど、デッサンを学ぶ……と」と復唱すると、なぜか相手は自分の語った内容を肯定されたように感じて、あなたにシンパシーを持ちます。そうすると、調子に乗ってペラペラしゃべりだします。

プロインタビュアーの吉田豪氏は、この反復鸚鵡返しとダハハ!の笑いだけで、インタビュー相手に墓穴を掘らせる名手。どんなダメ編集者でも拝聴すべき意見がまったくない人はいないので、どんどん引き出しましょう。

上手くすれば、思わぬインサイダー情報も引き出せます。

 

※次回は、持ち込み後のお話を。

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