第02回:漫画家はスポーツマンと同じ
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第02回:漫画家はスポーツマンと同じ

By MANZEMI

■数字で考えてみる■

トキワ荘プロジェクトのアンケートでは、プロになった漫画家の33%が100ページ以内の投稿作品の作画量でデビューしています。投稿規定は30ページですから、だいたい3本ぐらい。

プロになる人間は投稿2本目や3本目でデビューする人が3人に1人。

これが200ページ以内に拡げると、デビュー率はさらに60%ぐらいに跳ね上がるとか。編集者としての自分の経験では、担当したほとんどの漫画家は3作目以内にデビューしている印象があります。

ただ、ある漫画家に聞くと、5作品を投稿したがデビューできなかったのに、6作目で担当がつき、7作目でデビューできたと語っていましたから、担当が付くか付かないかも重要なのでしょう。

ちなみに、18%ほどが500枚以上の投稿作を描いて、デビューしています。プロになった5人に1人弱が、努力を重ねて20本近くの投稿作を描いて、デビューに到達するのです。

 

■漫画家は運動選手と同じ■

漫画の世界は、才能の世界です。それはたぶん、スポーツや音楽などと同じように。高校生の時点で100m20秒の人が、努力でオリンピック100mに出場できる可能性が、限りなくゼロに近いという意味で……。

普通に走ったら100mで11秒を切るぐらい速かったので、努力したという人が目指すのがオリンピックです。なので、大学や専門学校の生徒に、そう簡単な職業ではないことを理解してもらうために、講義の最初にこんな質問をしていました。

「今年の東京大学の合格者数、だいたい何人か知ってる?」

即答できた人は、一人もいません。自分には関係ない、別の世界の話だと思ってるので、そんな数字には興味が無いのでしょう。

 

■では、質問の答えを■

東京大学は日本の国公立大学で、実はもっとも合格者数が多い大学です。その数、約3000人。なぜこんなことを漫画家志望の学生に聞くかと言えば、漫画家の総数とほぼ同じだからです(勘の良い人は気付いたでしょうけれど)。

小学生でデビューするような早熟の天才から、植木金矢先生のような96歳の現役最年長の漫画家まで全部を合計しても、約3000人——。開店休業状態の人を含めても、約6000人ぐらいとされます。

ちなみに、コレはCLIP STUDIOで知られる、セルシスさんの推計です。

京都大学の合格者数は、東京大学の次に多くて、2800人ほど。つまり漫画家の総数は、今年の東大と京大の合格者数と、そんなに大差ないのです。ここまで説明されて、ようやく学生達は青ざめます。

ちなみに、間違いなく日本国内で超一流大学とされる旧帝国大学、すなわち北海道大学・東北大学・東京大学・名古屋大学・京都大学・大阪大学・九州大学の合格者数は、約1万8000人ほどです。

 

■3000人は多いのか?■

ということは日本には、例え中退しても食うに困らない学歴とされる超一流大学の合格者が、単純計算で18歳から80歳ぐらいまでに、のべ70〜90万人はいる計算になります。

さらに国公立大学でも、一橋大学や神戸大学、東工大、筑波大学などは旧帝国大学に劣らぬ名門大学です。もっと言えば、地方の国立大学の卒業生はエリートで、地元での就職にはさほど困りません。

国立大学の定員はここ数年は9万7000人弱。実際は辞退者を想定して多めに合格者を発表するので入学者数はほぼ10万人を超えます。ということは、全国には国立大学合格者がのべ300万人から400万人いる計算になります。

これに私立の難関大学——早慶智にMARCH、関関同立など——を加えると、どうやら日本人の総人口の約5%弱、600万人ほどは一流大学と呼ばれる名門大学に合格できるようです。

漫画家の総数は3000人から6000人弱という推計の意味が、見えてきましたよね?

 

■さらに恐ろしい数字■

昔、名門ラ・サール高校から現役で東大に合格した知人の話では、東大や京大に合格したラ・サール生でも、国立大学医学部合格者には一目置くそうです(もちろん、東大医学部と京大医学部はラ・サール生でも別格の秀才)。

ところが、医師国家試験の毎年の合格者数は8000人以上です。

日本の医者の総数は32万人弱です。つまり医者の総数は漫画家よりも50倍から100倍多いということになります。一流大学の合格者はさらに1000倍多いわけで、「勉強が苦手だから漫画家でも目指してみるか」と、安易に目指す商売ではないようです。

ついでに書いておけば、司法試験の合格者は毎年3000人ほど、会計士は毎年2400人ほど、行政書士は毎年4000人で、司法書士は毎年600人ちょっとが合格するようで。難関とされる国家資格も、漫画家に較べれば、ずいぶん多いですね。

 

■広き門と狭き門の話■

それだけ、漫画は才能の世界だということです。アメリカの映画『コーチ・カーター』では、底辺高校をバスケ部のコーチのサミュエル・L・ジャクソンが立て直す作品ですが、これがアメリカ版『ドラゴン桜』なのです。

プロバスケ選手になりたいと夢を語る生徒に、プロ選手の数と一流企業の従業員数を示し、勉強のほうが努力が報われることを説きます。

そう、努力がもっとも報われる・報われやすいジャンルは、実は勉強なのです。

さんざん脅すようなことを書きましたが、とはいえ漫画家はプロ野球選手より広き門です。育成ドラフトが導入されたとは言え、プロ野球のドラフトなどで入団する選手は、毎年100人から150人程度です。

でもその中で、高校生の選手は半分にも満たないです。2017年の夏の甲子園大会地方予選に参加した高校は、4000校前後。日本には高校球児が16万人ほどもいるのに……です。

 

■頭がクラクラする数字■

プロ野球選手の平均引退年齢は約29歳ですから、40歳までプレーする超一流選手もいることを思うと、ほとんどの選手が10年持たずに引退します。一軍登録は1チーム25人ですから、300人ほどの狭き門です。

これが力士になるともっと狭く、幕内力士はだいたい40人ほど。給料が出てプロと認められる十両を含めても約70人ほどです。将棋の棋士は特例を除くと、毎年春と秋に三段リーグを勝ち残った2人ずつ、合計4人しかプロになれません。

4年に1度のオリンピックは、2016年リオ夏季五輪の選手団が333人、2018年の平昌冬季五輪が124人と、かなりの狭き門です。なにしろ、団体競技を含めてこの数字ですから。

やはり、一年で何億も稼ぐような人気スポーツや、世界中のトップアスリートが集まるオリンピックに比較すれば、漫画家はまだしも広き門に思えます。ちなみに、アニメーターの総数も、漫画家に近いと言われます。

 

さて、イヤな数字をズラズラと並べましたので、次回はもうちょっとネームについて語ります。

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